好きなもの・好きなこと
-00- ≪What's the most favorite?≫
たぶん大勢に対して自己紹介をする初めての場だったと思うのですが、
保育園の遠足のバスの中で、回ってきたマイクを手にしたサトシ、
「自分の名前と好きなものを言って」と、先生に言われ、
「好きなものは電車です!」と元気に話したそうです。あまりにも彼らしい話なので、笑ってしまいましたが、
他の子はどんなものを挙げたのかしら、と
ママとしてはちょっと気になるところです。でも、
好きな遊び、好きなおもちゃ、好きな食べ物、好きな絵本…
「好きなもの」と一口に言ってもいろいろあるだろうに、
と思うのはどうやら大人の感覚らしく、
この設問で子どもたちは特段の迷いもなく、
ちゃんと自己紹介ができたようですね。彼のように超シンプルにいくかどうかは別として、
少なくとも“一番好きな○○は?”という質問に、
子どもの頃はもっと直感的に即答できたと思いませんか?
それが、歳をとるにつれ、たった一つを選択することが
難しくなっていくような気がします。少なくとも私はそうです。それは、いろんな経験をしていろんなものに出会って
選択肢が増えた結果の幸せな悩みといえなくもないのですが、
実はとても欲張りで執着心が強いからなのかもしれません。
なんとなく、たくさんの「好き」の中からNo。1を選んでしまうと、
選ばなかったものが自分から遠ざかってしまうような気がして、
好きなものは全部キープしたいという欲が働くのでしょうか。それと、大人になってからは、選択結果を語るにあたって、
余計な思惑や見栄がはたらいてしまうというのもありませんか?
これは最近よくある「心理テスト」なんていうのも
影響してるかも知れませんが、
「こう答えたら趣味悪いって思われるかな?」とか
「これが一番じゃあ、高級なものを知らないと思われるかな?」
みたいなへんな裏読みが働いて、
無意識に体裁の良い答えを選んだりして。
…ってそれは私だけ?それと、もう一つ難しいのは、かなり広い選択肢の中から
漠然と「好きな」と言われて、どういう切り口で選択したらいいか、
あるいはどういう切り口の回答を求められているのか迷うとき。例えば「好きな動物」と言われたら、何を基準に選びますか?
飼ってる猫を熱愛してる人なら「猫!」と即答できるかも知れない。
でも、多くの人は客観的にその姿や生態からかわいいとか思って
この動物が好き、と感じるんじゃないかと思うけど、
その「好き」は「飼ってみたい」なのか「眺めていたい」なのか、
中には「こんな風に生きてみたい」という基準で選ぶ人もいるでしょう。
ちなみに、私は動物はあまり得意じゃないので、好き、と言っても
決して飼ってみたいではなく、あくまで見てくれで選びます。
他の動物になりたいともあまり思わないし。またこれが「好きな食べ物」だったらどうだろう?
食べ物って一口にいってもいろんな種類があるわけで、
その中でジャンルを越えて一番好きって何だろう?と悩んでしまいます。
「甘いモノでは○○」「ごはんのおかずなら□□」「酒の肴なら××」
なんてジャンルを絞ってならなんとか選べるかな…でもかなり迷うかな。さらにこれが「好きな歌」だったら、もうどうしていいかわからない。
世の中に何万曲もある歌の中から、たった一つを選ぶ。
歌って、いろんな場面でいろんな気持ちで歌ったり聞いたりしてるから、
どうしても思い出と切り離しては語れないものがあって。
どの思い出も大切だからどの歌にも思い入れがあって
「どれか一つ」はとても難しいと思ってしまうのです。
「最近ではこれがお気に入り」「落ち込んだ時はこの歌を」
「子どもと一緒に歌うなら」「夜に一人で聴くには」と
ほんとに場面を細かく設定しないと、とてもじゃないけど選べない。まあ、そんなこんなで、優柔不断で見栄坊な私にとって、
「一番好きな○○は?」という問いに答えることは、
けっこうな葛藤をともなう難事業なのですが、
人にはわりと気楽に聞いちゃったりするんですよね。
なぜって……
他の選択肢を思いつく間もなく浮かんでくるにせよ、
たくさんの想いのせめぎ合いの中から選ばれるにせよ、
「一番のお気に入り」っていう選択は、
その人について−気質なり嗜好なり生活態度なり−の
なにがしかの真実を含んでいるものだと思うから。
だから、
あるいは、何を選んだかということより、
その“お気に入り”を構成する想いっていうものが、
結局その人のキャラクターってやつなのかも知れません。…そんなわけで、このサブタイトル
「好きなもの・好きなこと」というのは
けっこう墓穴堀りな企画だったなぁ…と思いつつ、
なるべく三段論法で「彼女はこういう人」と結論付かないように
いろんなお気に入りとその想いを綴っていきたいと思っています。− 2000.12.6 −
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